会社員の皆さんは、毎月給与を受け取ったときに給与明細を細かくみていますか?
「総支給額に対して手取りが少ない」や、「控除されるものが多い」といった感想は誰でも抱くと思いますが、それぞれの控除項目が何なのか、どう計算された数字なのか、といったことはあまり普段意識しないかもしれません。
本記事では、見過ごしてしまいがちな給与明細上の控除項目を、全体像が掴めるようにわかりやすく解説します。
給与明細の控除とは-そもそもなぜ給与から引かれるの?-
私たちが給与明細をみるとき、項目を大きく3つに分けることができます。
- 総支給額(額面)
- 控除額
- 差引支給額(総支給額-控除額)
総支給額は給与額そのものです。額面とも言われますが、ここから控除額が引かれた結果が、差引支給額すなわち「手取り」です。
控除額とは、法律に基づき給与から差し引かれるものです。
給与は、本来であればその全額が労働者に支払われなければなりませんが、その給与の中から労働者が負担すべき税や保険料が発生します。この労働者が支払うべき税・社会保険料を、会社が給与を支払うときに天引きして、会社が負担するものと合わせて国へ支払っているのです。
「手取りが少ない」と多くの人が感じるのは、この控除額が総支給額に対して大きな割合を占める(かつ年々上がってきている)ためです。
控除項目の種類
今回は、ほぼすべての会社員に共通して給与から控除される、次の5つを紹介します。
- 所得税・・・国に納める税金
- 住民税・・・地方自治体(都道府県および市区町村)に納める税金
- 厚生年金保険料・・・年金制度に納める保険料
- 健康保険料・・・医療保険制度に納める保険料
- 雇用保険料・・・失業保険等制度に納める保険料
以下、順に細かくみていきましょう。
所得税
所得税は、国税すなわち国に納める税金です。
私たちが納めた所得税は、社会保障、防衛、公共事業、教育など、幅広い目的で使われています。
所得税の特徴①-毎月の支払は「概算額」
所得税は、毎月の給与額(社会保険料控除後)に応じて引かれますが、これはあくまで概算額であり、正しい税額は毎年1月~12月の1年間の給与額等で正式に決まります。このように、毎月概算で支払った所得税を1年の終わりに精算するのが、年末調整です。
年末調整の時点で、それまでの所得税を払いすぎていれば還付、足りなければ追加徴収、となります。
所得税の特徴②-扶養人数で額が変わる
会社員に扶養家族(年収123万円未満の者)がいると、所得税額が低くなります。扶養家族が増えた、あるいは減った場合は、会社へ申告が必要です。
なお所得税の扶養家族には、16歳未満の家族は含まれません。この点は住民税の扶養家族と異なる点です。
所得税の特徴③-累進課税
所得税額は、<課税所得×税率>で決まります。課税所得については後述しますが、特徴として所得が高いほど税率も高くなる、といった点が挙げられます。
所得額の区分に応じて、5%~最大45%の税率が適用されます。
所得税額を低く抑えるには
税額は、前述のとおり<課税所得×税率>で決まります。課税所得とは給与額そのものではなく、給与額から社会保険料、その他の控除額を引いたものです。
- 税額 = 課税所得 × 税率
- 課税所得 = 収入 – 控除
したがって、控除額を増やせば課税所得が下がり、税額も下がる、ということになります。
控除額として認められるものは、主に以下のものがあります。これら一つ一つの金額は小さくとも、うまく組み合わせることで合法的な節税が可能となります。
- 扶養控除の申告
- 生命保険料控除の申告
- iDeCoなどの所得控除の申告
- 住宅ローン控除の申告
住民税
次に住民税です。住民税は地方税すなわち都道府県および市区町村に納める税金です。
住民税は、国税と比べると身近な住民サービスの財源として使われます。例えば、子育て支援、教育、高齢者福祉、清掃、といったものです。
住民税の特徴
住民税は、前年の課税所得に基づいて1年間の税額が決定され、会社員であれば6月から翌年5月まで給与から天引き(特別徴収)されます。
したがって、新社会人1年目の方はその年の住民税負担が無く、2年目から天引きされることになります。
住民税は、所得額にかかわらず一定額を徴収される均等割と、前年の所得額に応じて負担する所得割で構成されます。
住民税額を低く抑えるには
住民税のうち所得割は、所得税(国税)と同様に課税所得に対して税率(10%)をかけます。
すでに紹介したとおり<課税所得 = 収入 – 控除>ですので、住民税額を抑えるには控除を活用することがポイントになります。
住民税にかかる控除には以下のようなものがあります。
- 医療費控除の申告(1年間に10万円以上の医療費を支払った場合)
- 寄付金控除の申告(ふるさと納税など)
- 配当控除の申告
これらは所得税にかかる年末調整とは異なり、個々に確定申告をすることで控除を受けることができます。
厚生年金保険料
厚生年金は会社員・公務員が加入する公的年金制度です。
厚生年金は、加入者または加入していた者に対して、老齢、障害、死亡を事由とする以下の給付を行うものであり、この財源に使われるのが厚生年金保険料です。
- 老齢年金
- 障害年金
- 遺族年金
厚生年金保険料の特徴
厚生年金保険料は会社と労働者で折半負担しており、給与明細に載る控除額は折半後の金額です。会社と労働者それぞれの保険料を合わせると、給与額の約18%という非常に大きな額となっています。
厚生年金保険料は、所得税のように毎月金額が変動するものではなく、額が変わるのは原則年に1度です。
厚生年金保険料を低く抑えるには
結論から述べれば、厚生年金保険料を意図的に低く抑えることはできません。ただし、保険料がどのように決まるかを知っておくことで、「必要以上に高くならないよう注意する」ことはできます。
厚生年金保険料(後述する健康保険料も同様)は次のように決まります。
- 厚生年金保険料 = 標準報酬月額 × 保険料率
標準報酬月額は、原則として会社がすべての加入者の4月、5月、6月に支給された給与の総支給額および平均額を届け出て、これを等級表に当てはめることで決定します。これは全ての会社が行う手続きです。
したがって、この時期に残業代や歩合給などの変動給与が増えると、保険料増という結果で返ってくるという点を覚えておきましょう。
業務が忙しい時期と重なることもあるので、仕方のない面もありますが、これを知っているのと知らないのでは納得感が全く違います。
※「標準報酬月額」については別記事で詳細に解説しています。
参考記事:標準報酬月額とは【社労士解説】
健康保険料
健康保険は、会社員が加入する医療保険制度です。
健康保険は、加入者やその扶養家族が私生活で病気やけがをしたときに、医療費を軽くするための制度です。私たちが病院にかかるときに自己負担が3割で済むのは、加入者全体で支払う健康保険料で成り立っているためです。
医療費のほか、次のような給付にも保険料は使われています。
- 傷病手当金・・・加入者が働けなくなったときの所得補償
- 出産手当金・・・加入者が産休中に受けられる所得補償
- 高額療養費・・・窓口負担が自己負担限度額を超えた場合に、超えた分を給付として戻してくれる
健康保険料の特徴①-加入する保険者により保険料率が違う
健康保険料は次のように決まります。
- 健康保険料 = 標準報酬月額 × 保険料率
この計算式自体は厚生年金と同じですが、厚生年金と違って勤め先の会社によって保険料率が異なる点が特徴です。
健康保険は保険者(保険の運営者)が様々です。一般的な企業は全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入しますが、主に大企業であったり、あるいは業種別に組織される健康保険組合に加入するケースもあります。
保険料率は保険者ごとに決めるものであり、それぞれの保険者が財政状況や保険給付の状況に応じて(法律で認められる裁量の範囲で)決めています。また全国健康保険協会の場合は、都道府県ごとに保険料率が決められています。
健康保険料の特徴②-年齢によって介護保険料が上乗せ控除される
健康保険料を支払う加入者のうち、40歳から64歳までの者は、健康保険料とセットで介護保険料を負担します。
健康保険料の特徴③-扶養家族がいても保険料額は変わらない
健康保険では、一定の収入未満の家族がいれば扶養家族として加入させることができますが、この扶養家族が何人いたとしても保険料額は変わりません。
扶養家族は「タダで公的医療保険に加入できる」ことになるので、この点だけに着目すれば「扶養に入れた方が得」という考え方もあります。
健康保険料を低く抑えるには
考え方はすでに述べた厚生年金保険料と同じで、意図的に低くすることはできません。
健康保険料の決まり方も、原則4月、5月、6月の給与平均額をもとにしますので、この時期に変動給与が高くなりすぎないように注意することが必要です。
なお、健康保険の標準報酬月額は、厚生年金の標準報酬月額よりも上限と下限が広く設定されています。
雇用保険料
最後に雇用保険料です。雇用保険は、働く人の雇用と生活を守るための保険制度です。
私たちが払う雇用保険料は、次のような給付の財源となります。
- 失業給付(基本手当)・・・就職を希望する失業者の所得補償
- 育児休業給付・・・育児休業中の所得補償
- 介護休業給付・・・介護休業中の所得補償
- 教育訓練給付・・・労働者の資格取得の費用支援
雇用保険料の決まり方
雇用保険料は、次のように決まります。
- 雇用保険料 = 総支給額 × 雇用保険料率
雇用保険料の計算においては、税のような「課税所得」や社会保険の「標準報酬月額」のような概念が無く、単純に毎月の給与総支給額に雇用保険料率を掛けて算出します。なお雇用保険料も会社と個人両方が負担します。
雇用保険料率は年度ごとに変動がありますが、およそ1.5~1.8%程度で、このうち個人負担分は0.5~0.7%程度です。社会保険料(健康保険・厚生年金)と比べれば少額とはいえ、会社員でいる限りは控除されます。
なお雇用保険料については、残念ながら金額を抑える方法はありません。
まとめ
給与明細をみると、控除の種類の多さとその金額の多さに驚きますが、これらは単に「引かれているだけのお金」ではありません。
税は国や自治体の公共サービスの財源として、保険料は自身や加入者全体への支援の財源として活用されるものです。
今回紹介したもののうち、社会保険料については、制度の詳細を含めて別記事で紹介しています。
参考記事:社会保険料はなぜ払わないといけない?
給与明細は毎月「自分が納めたものの記録」でもあります。本記事でご説明した内容を頭に入れてじっくり眺めてみると、理解が深まるはずです。
税・社会保険は制度が複雑であり、個別のケースについては状況によって異なります。不明な点がある場合は、税理士や社労士などの専門家に相談してみることもおすすめします。

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