老齢年金は、現役世代が年金保険料を納め、原則として65歳から受け取りが始まる年金です。「自分の年金が将来いくらもらえるのか」という点は、当然関心を持たれると思います。
今は現役世代であっても、日本年金機構から年に1度送られてくる「ねんきん定期便」で、将来の受給見込額を知ることはできます。ただしこの中身はかなり複雑で、見込額に対してどんな計算でこの金額になるのかという点はなかなか注目されづらいのではないでしょうか。(そもそもねんきん定期便には計算式は書いていません。)
今回は、「会社員として【月収30万円】で【5年間厚生年金保険料】を納めたら、老齢年金はいくら増えるか」という具体例を使いながら、老齢年金の計算方法を紹介します。
シミュレーション/厚生年金保険料を5年納めると・・・
さっそくですが、あなたが会社員であると仮定し、月収30万円で5年間厚生年金保険料を支払うと年金はいくら増えるか、シミュレーションします。(賞与があればこちらも保険料がかかりますが、ここではシンプルにするため賞与は無しとします)
まず結論は、上記によって老齢年金全体で【約20万円/年】の増額となります。月額にすると1万6000円程度です。「それだけ・・?」等いろいろ感想があるかもしれませんが、この中身をみていきましょう。
老齢年金は、「老齢基礎年金」+「老齢厚生年金」に分かれます。厚生年金保険料を払った期間(=会社員である期間)は、原則国民年金保険料も納付したとみなされる期間となります。したがって厚生年金保険料を払うことで、国民年金法の給付である老齢基礎年金と、厚生年金保険法の給付である老齢厚生年金がそれぞれ増えていきます。
以下それぞれの計算式を解説します。
老齢基礎年金の増額分
まず、厚生年金を1か月払うと老齢基礎年金がいくら増えるか、というのが以下の式で算出された1,733円/年額です。

831,700円は令和7年度の老齢基礎年金の満額です。満額というのは、20歳から60歳の前月までの480月、保険料を支払った場合の金額という意味です。老齢基礎年金の額はこの480月の保険料納付状況によって「減点方式」のようなかたちで決まります。したがって学生の納付猶予期間、保険料免除期間、または未納期間などがあれば満額からその分減額されます。
※細かい話ですが、老齢基礎年金のもとになる厚生年金加入期間は、上記のように20~60歳前までです。20歳前や60歳以降の厚生年金加入期間は、老齢基礎年金ではなく、老齢厚生年金の「経過的加算」という部分に反映します。見かけの項目は変わりますが、金額は変わりません。
なお、基礎年金の額は保険料納付月によって決まるので、会社員である間の給与額が20万円であろうと50万円であろうと、増え方は変わりません。
以上から、1か月あたりの1,733円に5年=60月をかけて、5年間厚生年金を払った場合の基礎年金は103,963円/年となります。計算式は下記のとおりです。

老齢厚生年金の増額分
次に、厚生年金を払ったときの老齢厚生年金の増え方です。老齢厚生年金は、【加入した月数】と【加入している間の給与・賞与】によって金額が変わります。計算式は以下のようになります。

ことばの定義を確認しますと、「平均標準報酬額」とはおおざっぱに言えば厚生年金加入期間中の平均月収です。賞与があればこれも含めて、<平均年収÷12>のような計算となりますが、今回は5年間に絞って月収も30万円で変わらない前提ですので、「平均標準報酬額」=300,000となります。
以上の数字をあてはめると、月収30万円で5年間加入した場合の老齢厚生年金は98,658円/年となります。計算式は下記のとおりです。

シミュレーションのまとめと補足
シミュレーションをまとめると、月収30万円で5年間厚生年金保険料を支払った結果はこのようになりました。
- 老齢基礎年金⇒103,903円
- 老齢厚生年金⇒98,658円
- 計⇒202,621円/年額
月収30万円であれば、1か月に2万8000円弱の保険料を支払います。「払った保険料の割に年金が少ない」と思われたかもしれませんが、この5年間の結果をそのまま40年に置き換えてみると、老齢年金全体としては約160万円/年となります。実際には厚生年金期間の長短や、賞与がプラスされることで人によって変動が生じますので、「こんなもんかな」という感じではないでしょうか。
以下、補足として少し細かい内容を解説します。
【平均月収⇒標準報酬月額について】
今回は話を単純化するために、平均月収を30万円と仮定しました。老齢厚生年金の式に出てくる「標準報酬額」とは、厳密にいえば月々の「標準報酬月額」と、賞与から1000円未満を切り捨てた「標準賞与額」を平均したものです。老齢年金の金額を決める際は、加入した全期間の平均を使って計算されることになります。
標準報酬月額は給与額によってランク分けされますが、最低88,000~最高650,000となっていますので、月収がいくら高くても上限は650,000であると同時に、払う保険料も<650,000×保険料率>が上限です。
【老齢厚生年金の計算式について(平成15年3月まで)】
老齢厚生年金の計算式に出てくる1000分の5.481は、平成15年3月以前の加入期間に対しては1000分の7.125に置き換えられます。これは、平成15年3月までは「標準賞与額」というものが無い、すなわち賞与に保険料がかかっていなかった影響で、掛け率がやや高くなっていました。賞与にも保険料がかかるようになったことを「総報酬制」といいます。
【従前額保障について】
老齢厚生年金の計算方法は平成16年に改正されました。今回紹介した計算式は改正後の本来額です。ただし、本来額が、改正前の計算方法で算出した従前額よりも少ない場合は、高い方で計算するという「従前額保障」が採られています。
従前額の計算方法は、外部リンク:日本年金機構のHPをご参照ください。
まとめ
今回は、あまり普段意識されない「老齢年金の計算方法」を、具体例を使ってみてきました。ここまでご覧いただくと、老齢年金の額は、40年あるいはそれ以上という非常に長い期間の成績表のようなものだとわかります。
国民年金であれば20歳から60歳前までの加入ですが、厚生年金は10代でも60代でも働いていれば加入します。当然人によって加入歴は違いますし、給料・賞与の額でも変動します。また今回紹介した以外にも、老齢年金は受け取りを前倒しする「繰上げ受給(本来額よりも減額)」や、後ろ倒しする「繰下げ受給(本来額よりも増額)」することによっても金額が変わります。
「年金はどうせもらえない」「破綻する」とイメージを持つ人は多いですが、年金の財源に税が含まれることはあまり知られていません。老齢年金は、11~12年くらいもらい続ければ、自分がかけた保険料を回収できるくらいの計算です。当然、個人レベルでは早く亡くなれば損で、長生きすれば得ということにはなりますが、年金全体としては保険数理と税財源をもとに制度が破綻しないように設計されています。
一方で、今後少子高齢化によって保険料の払い手が減り、年金受給者が増えれば、現状の計算方法は維持できなくなるかもしれません。このために、国が自身で老後資産を形成するよう促していることも事実です。そのような中でも、私たちとしては「年金は破綻する」といったイメージに惑わされず、中身を冷静に理解することも重要だと考えています。

コメント